新型コロナのワクチンを接種しないことでハラスメントが起きているというのを目にして、社労士として考察してみたいと思います。
ちなみに労働施策総合推進法の改正により、2020年6月1日からパワーハラスメント防止措置が事業主の義務となりました。
(中小企業は2022年4月1日から義務化。来年ですね。
就業規則改定の準備を今のうちにしておきましょう)
今までは指針だけだったパワーハラスメントは”法律上明確”になりました。(事業主だけでなく労働者にも責務が課せられています)
【パワハラの定義】
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
【パワハラの類型】
①身体的な攻撃
②精神的な攻撃
③人間関係からの切り離し
④過大な要求
⑤過小な要求
⑥個の侵害
【参照】厚生労働省あかるい職場応援団HP
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/index
さて。
調べたところ、新型コロナワクチンの接種は努力義務となっています。(予防接種法第9条)
【参照】厚生労働省HP新型コロナワクチンQ&A
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0067.html
少なくとも接種する努力はしようぜってことなのですが、病気等で打てないこともあるし、ご本人の信条で打たないこともありますね。
(ここではご本人の信条で打たないことが努力義務を果たせるかどうかは置いておく)
接種するよう努力はしました(でも接種しません)。
どれだけ努力したか第三者にはわかりませんし、努力義務には法違反の制裁はないことがほとんどです。
ただ、対応を怠っている(接種する努力をしていない)、接種しなくていいよと触れ回る(接種への努力義務とは反対のこと)をしていると、そのことにより損害を受けた方から損害賠償請求をされたりはするかもしれません。
(これはもう裁判の話ですね。感染経路を明らかにして明らかに接種していない人からの感染だと証明しなければなりませんけど。)
損害賠償請求されないまでも感染者が出たことで会社の評判は悪くなるかもしれません。
⇒感染症はどんなに対策したところで、いつどんな人でも罹るものです。なのでコロナに罹ったからといってその人を責めることはできません(というか責めてはいけません)。
ただ、ワクチンを接種する”努力”をしたのか、企業は問われるでしょうね。
特に病院や介護施設など、感染症を患ったら命の危機に直面するハイリスクな人が”お客様”の場合は、ワクチンを接種していない方をスタッフとして雇うのはリスクが高いと判断されても仕方がないかもしれません。
ワクチンを接種したからと言って新型コロナに絶対に罹らないわけではないけれど、リスクは軽減されます。
(厚生労働省の調査でも医療機関クラスターの減少が確認されていること、ワクチンを接種したことによる感染者、重傷化率、死亡率の減少は日本より早くワクチン接種が普及した他国の結果を見ればわかると思いますが)
またお客様に対しての企業責任だけでなく、事業主は従業員に対して安全配慮義務が課せられています。
安全配慮義務とは従業員が心身ともに安全に働けるように職場環境等に配慮することで、労働契約法第5条にて明文化されています。
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労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
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社内でクラスターが発生してしまえば業務が滞る可能性も出てきます。
また消毒などの対応でいったん閉鎖をする必要もあるかもしれません。
(新型コロナが流行り始めたころに病院クラスターが起こったとき、病院が一時閉鎖したりして通院できなくなった患者がいたことは記憶に新しいと思います)
このことからも企業には従業員にワクチンを接種させることに対してある程度は”お願い”することはできると思います。
ただどうしても接種したくないという人がいたとき、どこまで”お願い”することができるか、事業主の安全配慮義務にはハラスメント対策も含まれていますので、”強要”するようだと安全配慮義務が果たされないことになりかねません。
本人の意思に反して”無理矢理”ワクチンを接種させようとしたり、接種していないことを理由として無視したりするのはハラスメントになります。
ただ業種(特に医療や介護関係)によっては、ワクチンを接種しないことによる業務の変更(たとえば患者様や利用者様に直接かかわる職種からは外す)、会社内で立ち入れない部署等を指定するなどの対策、そして業務変更に伴う労働条件の変更はありうると思います。
労働基準法第3条に均等待遇の項目があり、信条等によって差別的取り扱いはできません。
ワクチンを接種をしなかったことによる労働条件の変更が差別的取り扱いとなるか否か、ですが、あくまで客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な対応であれば労働条件の変更は認められると思います。
やりたい業務から外されたり未経験の業務に異動になった、賃金が下がったなどそれだけをもってハラスメントだ、不利益変更だ、とはなりません。
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労働基準法第3条(均等待遇)
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
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先にも書きましたが、安全配慮義務にはハラスメント対策も含まれますので、ワクチン未接種者に対するハラスメントが起こらないように注意する必要もあります。
ワクチン未接種の従業員を仕事上のことで仲間外れにしたり、無視したり、ましては暴力(言葉でも)はいけません。
(逆にワクチン接種者に対する、未接種者の攻撃ももちろんダメですよ)
当然にワクチンを接種させることを”強要”はできませんが、業種、職種によっては接種してもらう方向へお願いするのは致し方ないと思います。
そして、どうしても接種したくない従業員に対する労働条件の変更は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるか否か、が重要です。
もちろん未接種であることで(業務上)避けたり、仕事を与えないことはハラスメントになります。
職業選択の自由や労働する権利があるとはいえ、それは自分や周りの人々の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)が保障されたうえで成り立っていると私は思います。
ちなみに労基法第3条は採用した後の話であり、雇い入れを制限することではないので、ワクチン未接種であることを理由に不採用とすることは特に問題ありません。
⇒事業主にも自己の業のためにどのような人をどのような条件で雇い入れるかの自由があります(労基法や最賃法などに抵触していないこと前提)。
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憲法第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2)何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
憲法第25条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
憲法第27条
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2)賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3)児童は、これを酷使してはならない。
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